パノラマロジック

オタク怪文書

月刊根本宗子「私の嫌いな女の名前全部貴方に教えてあげる。」感想


月刊根本宗子初めて観てきました。すごく面白かった。
これはほんと、色々な人が書いてるけど、一方で笑いが起きるけど一方では自分の身につまされてまったく笑えないというお芝居。勿論リアルよりずっと滑稽に戯画化されてるんだけど、そこにがっちり自分の身に当てはまるような痛々しさが含まれているので、手放しには笑えない。それどころか泣けました。

アイドルバンドのボーカル川西くんを巡って、彼と同棲中の劇作家の根本宗子(本人役)、彼と合コンするキャバ嬢達、そして彼の熱狂的なファンのアンリが繰り広げる悪夢の惨劇を描いたのがこのお芝居。

終わってしまったので、内容をざっくり説明すると、川西くんはキャバ嬢との合コンで唯一気に入った清楚系ビッチと浮気をしてしまう。それを知った彼女の根本さんは川西くんと泣き喚きながら大げんか。一歩も引かない川西くんは彼女に対して少し暴力的な一面も見せる。

そして川西くんの浮気から何も芝居が書けなくなった根本さんは、川西くんと合コンしたキャバ嬢達を次々に刺し殺していく。血に染まるカラオケボックス。川西くんと浮気した清楚系ビッチの笠島が最後の一人となり、根本さんは彼女にたいして「自分がどれだけ川西のことを近くで見て様々なことを知ってきたか」をとうとうと語る。ビッチと浮気したことで逆ギレした川西くんは「私の知らない川西くんだった」と。

と、そこへ川西の熱狂的なファンのアンリが登場。「お前らなんかより、CD1000枚買った私が一番川西くんを思ってる」と絶叫。ラストシーンはライブハウスのスポッライトに照らされて歌う川西くんと、それをステージの下から見てバンギャル独特の動きをするアンリが幻想的に映し出されて終わるのだ。

いやー、泣けるよ…。

誰って、アンリに感情移入しまくる…。アンリの存在はもしかしたら、ある男の痴情のもつれの物語を突飛な位置から粉々に破壊しに来たただの道化なのかもしれない。彼女の記号的なバンギャルとしての立ち振る舞いはあのお芝居の中でも一番戯画化された存在だったように思う。けれど一番泣かされたのは川西くんを長年ストーキングしてきた熱狂的なファン、アンリのセリフだ。

「川西くんのどんな面を見ても、川西くんが一番だと思ってここまで来た。頭がおかしくなきゃ好きでい続けられない」(セリフままじゃないけど、そんな趣旨のことを言ってたと思う)

私もずっとステージの上の人ばかり好きになってきた。
そんな人たちのプライベートな恋愛が気になって仕方ないタイプだ。アイドルなら早く恋愛報道が出て欲しいと思うし、いっそAV女優と付き合ってくれるといいな…と思ったこともある。そしたら普通は彼しか知らないであろう彼女の身体のすみずみがオープンにされているから。ステージの上に立つんだからそこらへんまで私たちに差し出してくれよ、と思ってしまう。

なんで自分から率先して大好きな人がどんな女とどんな恋愛してるか知りたくなってしまうのかと言えば、それは花も恥じらう小中学生だったときに知った、好きな芸能人の恋愛スキャンダルに傷ついた反動だと思っている。そんなにすごいスキャンダルを見聞きしたわけではなくて、近しい女性との根も葉もない噂ばっかりだったと今は思うけど、そういうのに傷つけられるうちに過剰反応してそこだけ皮が厚くなってしまった感じ。

だからわたしは大好きな人がどういう恋愛してるのか仔細に妄想する癖がある。絶対に自分ではない誰かに恋愛している愛しい人の妄想。しかし、自分が介在しない恋愛妄想は客観的に見れば虚しい。どうしてこうなっちゃったんだろうと思う。どこかでは夢小説的な思考に憧れている。

だから、どんなに裏切られたような場面を見ても狂気的に「好き」の気持ちを持ち続けてきたアンリに自分を少し重ねてしまった。もちろんアンリみたいにストーキングに走ったりしてないし妄想だけですけど…。

このお芝居の中では、「好き」と「嫌い」の価値が反転しているように見えた。

アンリもそうだけど、彼女の根本さんも、「好き」という気持ちで魔物になっている。川西くんと根本さんがえんえんと口論するシーン。観客として見ていても「早くどっちかが折れてやめよーぜ…」と思えるほどに疲れる喧嘩だった。根本さんはそこで「嫌いになれないから、こんなに怒ってるんじゃ〜ん」と喚いていた(これもセリフままじゃないのでニュアンス)。

そう、嫌いになれれば物語は終わるのだ。「好き」を暴発させたせいで、二人の口論はえんえん終わらない。そして、根本さんは合コン相手を惨殺する。

対して、「嫌い」という感情はとても気持ちの良いものじゃないか?とこのお芝居を見てると思えてくる。

お芝居のタイトルからもあるように、最初の合コンシーンでは、女が嫌う女たちの行動が大変胸糞悪く描かれる。身の周りによくいそうな「嫌いな女」。空気読めない不思議ちゃんとか、先輩にへーこらするぶりっことか。

そして、一番忌み嫌うべき存在として、笠島という女が描かれる、清楚で何も知らないようなフリをしながら眈々と川西を狙ってて、挙句トイレの中で川西とキスをする笠島である。無個性でかわいげのない無難なファッションで、男心を知り尽くした言動をとる。過不足なく抜け目ない。

そんな笠島を血にまみれたカラオケボックスで、包丁を片手に根本さんが追い詰める。芝居の上では「彼氏を寝取った女への殺意」がこの行動に走らせてるわけだが、実名で登場した根本さんが「お前の、その服装とかなんかもう全体的に嫌いなんだよ!」って言ったときの痛快さと言ったらない。実名で、本人役として登場する根本さんの生々しさが、そんな清楚系ビッチへの嫌悪をほとばしらせる。ああこれは現実なんだと思う。

直接的になにかされたわけでもないけど敵だと感じる同性っていっぱいいる。目に見えない誰かといつも闘ってる。その目に見えない戦闘が目の前で具現化されて、ラスボスを血まみれの手で追い詰めている!って考えたらあのシーンはすごく興奮した。

もしかすると、「嫌い」という気持ちは「好き」よりもずっと楽しいことなのかもしれない。

劇中ではBiSの曲がいくつか使用され、根本さんの部屋を模したセットには大森靖子のポスターが貼られていた。私はBiSと大森靖子が嫌いだ。直接的になにかされたわけでもないけど、「これ敵だ」と直感がいう仮想敵の典型。でも、劇中で爆音でかかるBiSはしみじみとめっちゃかっこいいし、このお芝居のお陰で帰り道に大森靖子聞きながら帰った。

やっぱり「嫌い」って楽しいんだな、と思った。


ちなみにこの川西くんのモデルというかネタ元となっているのがセカオワの深瀬くんていうのもまた絶妙だと思う。セカオワも、手放しで好きにはなれない存在だ。でもすごい気になってる。いま中学生だったらきっとハマってたかもしれない。ここにも手触りのよい「嫌い」の気持ちが存在している。

でも、深瀬くんの抱える不安定さとか、危うい感じ、妙に性的で気になってしまう。こういうタイプを好きになったら、それはその「好き」で、その身を滅ぼしかねないよね…。

私は深瀬くんと同じDopeの帽子を愛用している声優の鈴木達央さんが好きです。