パノラマロジック

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OLDCODEX Tour 2015 ONE PLEDGES初日の感想

3月のFree!イベントで達央さんが、宮野真守さんに対して「このバラエティ狂いが!」と突っ込んだことがあった。何気ない言葉だったけどそれは的を得ている気がする。宮野真守には、執拗なまでに人を楽しませようとする執念があり、それがイベントやラジオでの振る舞いから窺える。それは、きっと宮野真守のコンサートがネタバレ禁止なことにも現れていると思う。来た人を万全の状態で楽しませるため、お客さんにすら協力を願うのだ。それほど宮野さんの人を楽しませることへの責任感は重いのだと思う。

そして、そんな宮野真守を「バラエティ狂い」だと評した鈴木達央という人はその真逆に位置するタイプだな、とライブを見ていて思った。OLDCODEXのライブで、Ta_2さんは客席に向かってよく「お前らはほんと何でも楽しむ天才だな!」と言う。先日の豊洲でのツアー初日でも言っていた。

客席の楽しさはステージにいる自分が提供しているものではなく、自分が提供する音にあわせて楽しさを見出すのはあくまでもオーディエンス側であるということだ。客席とステージが一体となって盛り上がる場面で放たれるこの言葉は、客席を煽りつつも、少しだけオーディエンスから距離をとっているようにも聞こえた。

 

ONE PLEDGESツアーが始まった。

 

昨年のアルバム「A Silent, within The Roar」から今回のツアーのセットリストに引き継がれた曲はRage Onを入れると2曲のみ(※4/30のセットリストに限っては)。それ以前の曲を多く盛り込み、違和感のない流れで最新の曲が繰り出されるという、前年のツアーとはあきらかにモードが違うことを見せつけたライブだった。

A Silent, within The Roar」というアルバムとツアーは、今にして思えばわかりやすくてキャッチーなものを目指していたような気がする。アルバムはどの曲も味がはっきりしていて、それぞれの役割が明確だった。その中で一際明るくて、一体感のあるコールアンドレスポンスができるLandscapeが本編のラストに演奏されていたことからも、ツアーの色が窺えると思う。

対して、ミニアルバム「pledge」を引っ提げたツアーONE PLEDGES はどうだったかというと、豊洲PITで見た限りでは、昨年のツアーで感じたキャッチーさから遠ざかろうとしている印象を受けた。

直近のタイアップヒット曲であるDried Up Youthful FameWALKがなく、ここ最近のライブで、頻繁に演奏された印象のflag on the hillもない。その代わり、birdsやAchromatic habitなど「A Silent, within The Roar」以前の名曲を盛りこんでいた。そして、色褪せない鮮烈な過去の曲達と並び、最新アルバムのLost beforeseequretがまったく遜色なく、地続きに聴こえてくるのは嬉しい発見だった。昨年のツアーでファンから「OCDは変わってしまった」と言われることをTa_2さんはMCとwired choirという曲で否定してきたが、もうわざわざ口に出さなくても、バンドに流れている血はやはり同じなのかもしれないと思わせてくれる。そして、こうしたバンドの原風景に迫る曲は、完璧な一体感を産むようなものというより、内省的で、メランコリックな憂いを帯びたステージを見せてくれる。

また、OCDはなんだか「お約束」みたいなものを嫌う性格なのではないだろうかと思えてきた。「pledge」のリード曲のEyes in chaseでさえ、サビでTa_2の歌の後に演奏のみが流れる余白が出来ていたり、アウトロがシャウトで突然終わる。DUYFでも感じたことだが、聴いている人の意表を突くための、かすかな違和感をつくることを意図して作られている印象を受けるし、「pledge」のその他の曲も一聴しただけではわかりにくい構成になっている。

こうしたOCDの天邪鬼な性質は、彼らの魅力だと思う。サビをキャッチーにしても、全体としてはキャッチーを目指さない。けれども、こうした「キャッチー」でありつつ「キャッチー」から遠ざかろうとする姿勢は時としてマイナスにもなり兼ねないのではないだろうか。

彼らはLantisに所属している以上、「キャッチーさ」を求められる存在だと思う。もちろんOCDがアニメタイアップとして制作してきた曲達はどれもアニソンとして機能的でキャッチーだった。けれども、バンドを支える根幹の姿勢がキャッチーさと無縁であるならば、このレーベルという圧倒的なホームの場もといアニソンシーンが、バンドとしては逆にアウェーにもなりえるのだろうなと思うのだ。単純に楽曲としてではなく、バンドの姿勢として、知らない人でも立ち止まりやすい引きを持ってたり、間口を広く構えて、おもてなしするような精神が求められる時があるのではないかと思う。

そんなことをランティス祭りの台湾公演LVを見ながら感じていた。昨年の国内のランティス祭りが終わった後もそうだったけれど、ランティス祭りの海外公演を終えてやたら「やっぱりワンマンはいいなあ」としみじみMCで話すTa_2さんがいたのは印象的だ。海外旅行から帰ってきてやっぱり家が一番落ち着くなあっていう。海外旅行ならわかる。でもバンド活動において、時には外の世界でお客さんを獲得してくることも必要なのではないのだろうか…安心してちゃいけないのではないだろうか…と余計な心配をしてしまう。

 

ライブ終盤は、定番となったRage onKick outから怒涛の勢いでreelの凶悪なイントロへ向かう。と、思ったらなんとなくかわいげのあるサビとCメロ(?)で肩透かしを食らう。そういう裏切り感がOCDっぽいなと思う。

そして、Bitter Aspirationへ畳み掛ける。「pledge」や直近のシングル収録曲でも顕著だったヘヴィな重低音が影を潜め、とりわけシンプルな印象のなこの曲がまさか本編の終盤で演奏されるとは思っていなかったので衝撃だった。LandscapeKick outなどのライブ仕様の曲が演奏された後でこの曲を聴くと、ひたすらにメロディと歌詞の切なさが胸を打つ。

そして、ラストはEyes in chase。咆哮とスレスレの鬼気迫るボーカルを、一身にマイクに込めてTa_2さんは歌う。

バンドの行く末はわからない。武道館をやったバンドにだって、一寸先にに仄暗い落とし穴が待っている可能性だってある。もしかしたらOCDにとっての居場所はアニソンシーンでも、その向こう側でもなく、このステージにしかないかもしれない。けれども、踏みしめたその場所を誇示するようにTa_2さんは歌っていた。

中途半端だと揶揄されることを気にして「日本一中途半端なボーカリストになってやるよ」と胸を張って主張していたこともあった。その言い草は子供の逆ギレみたいにも見えたが、それでも、豊洲PITのステージという限りある場所に立って歌うTa_2さんの存在は強く、尊くて、唯一無二だと思った。もしも、誰かから取り上げられようとも、彼が立つその場所は必死で守るに値する、価値ある場所だ。だから誰もこの人の姿を咎めることはできないと思った。

Eyes in chaseを歌い終えたTa_2さんが客席を見渡す時の、満足げな表情が、この会場で一番楽しんでいるのは彼だということを物語っていた。もしかして彼はオーディエンスを「楽しませる」という意識はそこまでないのかもしれない。けれど、肉体から放たれる強烈な歌声の生身の魅力は、何度パフォーマンスを見ても飽き足りないとさえ思う。一回性のきらめきを持った素晴らしいエンターテイメントだ。

 

ということで残りの札幌と松山、あと追加のお台場楽しみにしてます。

 

pledge(DVD付)

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昨年のツアー初日感想をロキノン調で書いていたので、今年もそれを目指してみたのですが、なんだか中途半端に終わってしまいました。