パノラマロジック

オタク怪文書

梅原裕一郎さんのことをイケメンて言うのをやめようと思ったミリオンドール第0回ファンミ

ミリオンドール第0回ファンミーティングに、昼夜とも参加しました。

 

ミリオンドールといえば、女性アイドルの、しかもかなり規模感が小さい限定された世界のオタクの姿をリアルに描いた異色の漫画。周囲に女性アイドルのオタクが多いので、以前から話題だったこともありアニメ化の前から原作は読んでました。

私はこの作品のリュウサンというアイドルオタク役を梅原さんがやることに、お腹が痛くなるような不安と、残酷ショーを望むドス黒い楽しみがないまぜになって複雑な気持ちでした。

「汚いMIX」「強いオタク」「ガチ恋」とか、アイドルオタクの薄汚い自意識が垣間見えるジャーゴンまみれのキャラクターを、アイドルオタクの世界から遠すぎる梅原さんが演じることの、ミスマッチ。あれほどズバ抜けた顔面を持って生まれ、趣味はクラシック鑑賞で、スタッフが仕掛けたドッキリもすぐ見抜く頭の回転の良さがあり、他人に興味がない(本人談)梅原さんて、アイドルオタクのような人種とはかけ離れている気がするのです。誰かに強い興味を持って、無駄に思われることに最上級の価値を見出して自転車に乗った人間をリフトしたり、「おいしい」とか「強い」とかそういう実体を伴わない評価の世界の中心にいるような、いわば「しょーもない」人をやるのか、と……。

 

何が一番嫌かって、梅原さんが「汚いMIX」を作中で打つことでした。

vine.co

(参考に使ってすみません)

だって汚いから……と言うのは冗談としても、あまりに今まで演じてきたキャラクターにはなかった演技をするということで、その演技に梅原さんの声優としてのほつれを感じてしまうのではないかという不安のほうが少し大きかったのです。

 

ということで、戦々恐々としながら科学技術館に向かいました。お客さんは男性ばかりで、急な発表だったとは言え、もう少しいるのかな?と思っていただけに、梅原さんの人気の実態がよくわからなくなった瞬間でした。

前置きが長くなりましたが、イベント本編の感想を。ミリオンドールのファンミで見た梅原さんは、いい意味で隙がなかったです。

例えば、昼の部の「キャストのみなさんが好きなアイドルは?」という質問に、女性声優のみなさんが口々に自分の他の出演作品でのアイドルを匂わせる発言をしていった時のこと。梅原さんに話が振られた時、客席から「315ー!?」と声があがり、まさにその方向の発言をするのかなと思いきや「僕が好きなアイドルはマリコです」と回答。作品から脱線していく空気を修正し、なおかつその場の多くの男性オタクが心置きなく歓声を上げられる選択をとったことがかっこ良かった。

さらに、大喜利マリコ役の伊藤未来さんと決選投票になった梅原さん。拍手の大きさで勝敗が決まるのですが、梅原さんのほうが少しだけ大きく、優勝は梅原さんか……と思われた時に梅原さんが「俺はマリコのオタクなので、それはマリコに」と。優勝を伊藤さんに譲ってあげていたのでした。

そうやってあまりに隙のないイケメンぶりをイベント中に披露していただけに隣の渡部優衣さんに何度か「おいイケメン!」「イケメンずりーぞ!」ってイケメンいじりされてました。まさか女性からイケメンいじりされるとはすごいな。

男性声優が多く集まる現場での梅原さんは、空気をあえて壊したりずらしたりする印象があったので、これほどまで頼れる男ぶりを発揮する梅原さんが逆に新鮮でした。

そして、びっくりしたのが夜の部で言っていた、アフレコにオタクによるMIXの監修が入っていた話。

梅原さん曰く「アフレコの時に、後ろでここにいるみなさんのようなプロのオタクの方が僕の演技を見て指導してくれました。そのジャージャーは違いますね、とか」(発言はニュアンス)と。

もう、これ聞いた瞬間に爆笑してしまいました。MIXを監修するんだって。イケメン声優にMIXを監修するオタクの存在を想像したら笑えて仕方なかった。梅原さんは家でもMIXの練習をしていたそうです。イケメン声優がMIXの練習を……家で……!!!!

って考えてたんですけど、後から冷静になって考えれば考えるほど当たり前のことで、笑えなくなってきました。だって知らないことを仕事としてやるんだから家でさんざん練習するのは当たり前だろうし。むしろ、監修をきちんとつけるアニメ制作側のプロ意識を感じてすごいなと思うようになりました。

思えば、既定路線のイケメンキャラじゃない役を演じるのは役者としても挑戦で、練習の中で梅原さんは真摯にリュウサンと向き合ってるのだろうと思います。ならばその梅原さんがつくりだす「汚いMIX」に私も真摯に向き合わなくてはならないな、と思いました。

振り返れば、梅原さんの顔面がキャッチーすぎるため、梅原さんが何をやるにつけてもどこかで「あの顔面なのに」「あの顔面だから」と考えていたように思います。だけど、そうやって考えてたら、「汚いMIX」を仕事として真面目にやってるっていう、そんな当たり前のことすら見えなくなってたわけです。

だから、なんかもう梅原さんのこと安易にイケメンとして認識するのやめよう……、と思ったのです。別に蔑みを持ってそう呼んでたわけではなく、ただただキャッチーで便利な呼び方だから使ってただけだし、むしろ好意的にそう呼んでたくらいでした。

しかし、時として顔面でいじられてしまう梅原さんにとっては「イケメン」という言葉はネガティブな意味になる時もあるのだろうなと。自覚してはいたけど、この日ほど、梅原さんの顔に自分の認識が撹乱されてるなあと思ったことはありませんでした。

しかしながら、彼からイケメンというキャッチーなラベルをとって見ていくこともそれなりに大変そうで、男性声優という顔が重要視されない(はずの)世界に突然変異的な見目の麗しさをもって出てきた彼を取り巻く言説にはさまざまな語るべき余地がありそうで、表層こそが彼にとっては類まれな武器なのは確かだし空虚な表層にこそ本質が宿るというスーパーフラット的な解釈からすれば彼こそが演技という本質が求められがちな世界に生まれ落ちたニューエイジかもしれない。ってスーパーフラットのことはよく知らないので適当なこと書いた。

とにかく、外見が先行しがちな梅原さんですが、その仕事に対する姿勢や真摯さはそれに撹乱されずに見られるべき人なんだよなあと実感したのでした。この日の梅原さん、本当にかっこよかったです。

 

なお、「薄汚い自意識」とか散々書いてしまいましたが、女性アイドルの現場のオタクの空気感は好きなほうですし、ミリオンドールという作品はとっても大好きなのでアニメ化楽しみです。

梅原さんがリュウサンをやるにあたり、ぜひアニメで実現して欲しいのは、リュウサンが「俺もうオタク辞めるわ…」と傷心旅行に出た第59話のシーン。

オタクたちと傷心ドライブ中に、BGMでT.M.Revolutionの「魔弾」がかかった瞬間、オタクスイッチが入ったリュウサンが魔弾でMIXを打ちだすのです。

www.youtube.com

「狭い世界で君しかいない 他の名前が出てこない」というサビの歌詞にあわせて、ガチ恋してるマリコの名前を呼ぶリュウサン。車中のおたく、いっせいに「さすがリュウサンっす」「こんなバカな芸思いつくのリュウサンだけっすよ」ってゲラゲラ笑います。

単純に考えたら本当にしょうもない場面。だけど、アイドルオタクには時にこういうしょうもない瞬間がめちゃくちゃ自分の気持ちをたかぶらせたりする大事な瞬間になることもあって、しょうもないなあ……と思いつつめっちゃ共感してしまう大好きなシーンです。

「狭い世界で君しかいない 他に名前が出てこない」って閉塞感とどうしようもなく冷静じゃない感じが本当にガチ恋ソングとして胸にしみます。

もしかすると多くの「ガチ恋」を集めているんじゃないかと思われる梅原さんがこの曲でMIXを打つ日が来たらと思うと楽しみでなりません。