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個人的「このBLがやばい2016」な11冊を選んだ

このBLがやばい2016が発売されてもう一ヶ月近く経とうとしており、タイミングを逃した感がものすごいですが、めげずに今年も私的「このBLがやばい2016」を発表したいと思います。

このBLがやばい! 2016年度版 (Next BOOKS)

このBLがやばい! 2016年度版 (Next BOOKS)

 

 

このランキングは毎年気になってはいるのですが、BLって結局、読む人の趣味や性癖がその作品の評価を左右するものなので、多くの人の意見がランキングとして統合されるよりは、自分と感覚が合う人の「今年の10冊」みたいなレビューがたくさん読みたい気がします。ということで、私と趣味が似ているどこかの誰かに向かって。

「BLだけどそういうの得意じゃない人にもふつうにおすすめできる面白い作品」とかそれって結局BLじゃなくてもいいよなーと思ってしまうので、そういうのを抜きに考えてみました。

今年はどうしても10冊に絞れなかったので、11冊挙げます。

 

11位    「ギヴン」キヅナツキ 

ギヴン (1) (ディアプラス・コミックス)

ギヴン (1) (ディアプラス・コミックス)

 

男子高生のバンドものBL。バンドでギタリストをしている主人公の立夏が、天性の歌声を持った不思議ちゃんなボーカルの真冬と運命的な出会いを果たしていくところからストーリーが展開していきます。迷い犬のように突然現れた真冬、実は過去にギター絡みの悲しい過去があり……というのが第1巻。

バンドものBLと聞いてだいたいの人が想像するような展開だとは思いますが、この作品の何が画期的かというと、主人公がやってるバンドが、大学生と組んでるインストバンドなんですよ。今まで、女性向けコンテンツにおいてバンドものなんて星の数ほどあったと思いますが、主人公がやってるバンドがインストバンドなんて史上初ではないだろうか。もともとインストしかやってなかったバンドなのに、真冬の歌声が欲しくて立夏がバンドに引き入れたストーリーがBLとして生きてきます。

その他、各キャラの好きな音楽と持ってる楽器から使用しているイヤホン、ヘッドホンのメーカーまで設定が存在するのですが、主人公の男子高生、立夏の好きな音楽の設定が「オルタナグランジ、エモ、スクリーモエレクトロニカアンビエントダブステップ」。同じバンドのベースの大学生、中山くんの好きな音楽は「邦楽ロックとかダンスミュージック系」しかも映画専攻でフランスのヌーヴェルヴァーグが好き。なんつーかこういう設定とか、いんすとばんどだとか、リアルだしそのうえで、ファンタジック!ですよね。

キヅナツキさんの漫画は同人でもよく読んでたのですが、女子のファンタジーフィルターを通して見た「男子のリアル」を掬い取るのがとってもうまいなあと思います。キャラクター設定に限らず、例えば立夏がクラスメイトとおしゃべりするその瞬間の男子のわちゃわちゃ感までいきいきとしてるのです。

何を描いてもはずれがない作家さんだとは思いますが、キヅナツキさんの魅力のリリカルさとか、男子のわちゃわちゃ感がこんなに生きるバンドものBLってどんぴしゃだったのではないかと思いました。

10位「五人のセフレとカグヤ王子」流星ハニー 

五人のセフレとカグヤ王子 (ビーボーイコミックスデラックス)

五人のセフレとカグヤ王子 (ビーボーイコミックスデラックス)

 

 姫野カグヤくんというきゃるんとしたカワイイ総受キャラを5人の男達が奪い合う、乙女ゲーかよっていうBLなんですが、やっぱBLなので、5人とお姫様キャラで6Pします。さらに、ライバルだった5人の男の子たちの中にも愛が芽生え、その中でさらにカップリングができていくんです。どうですか、世界は愛で満ちているでしょう。

「箱推し」っていう集団を愛でる文化があるじゃないですか。BLでも流行ってほしいんですよね、箱推しできるBL。5人いたら5人の中でしっちゃかめっちゃかに愛し合って、最終的には5人で愛し合えばいいじゃないかなと思います。

お姫様なカグヤくんが5人からの求愛を断れないのは、過去に義父にいたずらされてそれを拒むと家族が壊れると思っていたから…というトラウマが理由なのも、闇が深くて能天気な世界観とのギャップが良いし、1話からセックス、セックス、性行為三昧なのに最終的に「カグヤ、もうセックスしなくていいんだよ…そんなことしなくても俺たちは君が好きだ」と言ってセフレから脱却するのもよかったです。

9位 「ヤングコーンの王子様」ナリ

ヤングコーンの王子様 (POE BACKS)

ヤングコーンの王子様 (POE BACKS)

 

 平凡だけど料理上手な男子大学生の雅七が、ひょんなことからヤクザに料理を教えることに。ヤクザ達になぜ料理を学びたいのかを聞いたら、彼らが敬愛する「若」においしい料理を作ってあげたかったらしい。その「若」が雅七を気に入り、雅七は若をめぐるヤクザの抗争に巻き込まれていく…というあらすじ。

この雅七が凛々しくてかっこいいけどかわいさもある受で、とても自分好みな上に、コメディとしても十分面白かったです。雅料理を教わるヤクザ達がクセものでかわいい。ヤクザ物語のバイオレンスさと、料理というほがらかなテーマの組み合わせ方のバランスがすごく良い作品でした。

8位「犬と欠け月」ウノハナ

犬と欠け月 (マーブルコミックス)

犬と欠け月 (マーブルコミックス)

 

 怪我で引退したボクサーだった過去を持つトレーナー×現役でチャンピオンベルトを追うボクサーのBLです。

スポーツもののBLはやっぱりウノハナさんの真骨頂だなと思います。ウノハナさん多作だけど、やっぱスポーツBLがずば抜けて素晴らしい気がします。一見いかつくて朴訥としてるんだけど、純粋で、わんこなボクサーの岳が不器用にトレーナーである一弥に寄り添っていく姿はいじらしいし、それをかわしていく一弥の、大人であるがゆえのずるさとか臆病さもいい。ウノハナ先生の描く男性ってなんか独特の骨っぽさがあってみんなかっこいいんですけど、中でも岳と一弥は格別だなと思います。

あとこの作品は好きすぎてCDも買ったんですけど、羽多野さんの子供を惑わすオトナ声の一弥は最高だし、増田さんの、ちょっとコミュ障感のある口下手な岳もよかったです…。だーますさんの声はいい意味でちょっと生っぽいところが、ウノハナ先生の描く骨っぽい男性像に合ってました。

7位「寄越す犬、めくる夜」のばらあいこ

寄越す犬、めくる夜 1 (Feelコミックス オンブルー)

寄越す犬、めくる夜 1 (Feelコミックス オンブルー)

 

ヤクザ、裏社会、暴力のBLは結構流行ってますがこの作品が描く世界にはとにかく救いがないのが良いです。チンピラの菊池がカジノのお金を横領したのがバレて組からリンチされるのですが、お金がないからまた繰り返しちゃう。その救いようのなさ、弱さに、一見お人好しキャラの新谷は興奮して性行為に及ぶのです。不憫萌えなのだろうか。菊池の不憫さもいいですが、お人好しキャラが自分のどうしようもない業を突きつけられるのもたまらないです。

さらにこのカップリングだけじゃなくて、新谷のことを気に入ったやヤクザの会長の「オンナ」である須藤も出てきて今後たぶん三角関係に発展しそうなのも最高。須藤のビジュアルがまたすごくて、長髪でガリガリのやせ細った身体に両乳首ピアスで、黒ビキニとストッキングだけ履いて出てくる。この凶悪な感じ!ラスボス感のある雌猫のような受!最強ですね。

この最凶の雌猫の須川が新谷を押し倒して性行為に及んでるときに須川の飼い主の会長がやってきて、新谷の口の中に銃口をつっこむシーンの緊迫感もすごいし、それが終わって新谷が須川のストッキングを破ろうとするんだけど、「変態!」って須川に叫ぶ新谷と、「新谷くん、人のこと言えんの?」っていうすべてを見透かした須川のやりとりもすごい。須川みたいな凶暴なビッチ待ってた。2巻が楽しみです。

6位「プレイバック」吉田ゆうこ

プレイバック (Canna Comics)

プレイバック (Canna Comics)

 

 大学生のはじめが、出会い系で知り合ったサラリーマンの都築と、サークルの友人の安芸と二人同時に関係を持ち、二人の間で揺れ動く物語。しかし、都築と安芸は実は知り合いで、安芸は都築の存在を知りながらはじめに近づいていったので、はじめと安芸の恋が主軸になっています。

映画的なコマ運びに定評がある吉田さんの作品ですが、プレイバックはその美しさが極まってる作品だと思います。はじめが都築に入れ込んでいることを知って自ら近づいていった安芸が、カメラを覗きながら屋上で「その人と別れて、俺と付き合ってください」と言うシーンとか、安芸とはじめがやっと結ばれるシーンでラジオから流れる音とともに二人が抱き合うシーンとかうっとりします。

また、二人の距離感が近づいていく仕掛けが、実ははじめの交通事故によるものなのですが、その展開が少しSFというか日常の枠をほんの少しだけはみ出してて、よかったです。日常の半径を出ないBLって結構あるけどこういう仕掛けも必要ですね。

 5位「ロマンティック上等」森世

最近商業でも増えてきたオメガバース設定のBL。オメガバースといういわば男性の中でオスとメスを決めてしまうような設定を利用して、オスに経済的に寄りかかって生きようとする「腰掛けOL」のような受キャラを生み出したのがすごい。初めてこの作品の第1回を読んだ時は、BLという思考実験も、行き着く先に現実世界の世知辛さを描き出すのか……とつらくなったものでしたが、ちゃんと最後まで読むとこれほどBLっぽい話はないなと思います。オメガバースの世界で真に「BL」なるもの、それはβとかαとかを超越した愛!

そうだ。そうなんだよな。忘れてました。オメガバースという設定はBLにおいて男性同士の性愛を容易にすすめるために、「制度としての男性同士の性愛」を導入するものだと思っていましたが、本来BLっていうのは制度を超越した愛を描こうとしてたはず。BLの定型セリフとして「お前が男だろうが女だろうが関係ない、お前だから好きなんだ」というやつがあって、それを結局オメガバースでやるなら「お前がΩだろうがαだろうが関係ない!お前だから好きなんだ」ということ。もう、ならばオメガバースなんてなくてよくない?と思ってしまいました。オメガバースのシステムエラーを暴いてくれたすごい作品だなと思います。

森世さんと言えば、墓場に頭を打ち付けられながらそういう行為に及んでしまう非常に衝撃的なシーンがある「みっともない恋」もすごかったです。しかし、「ロマンティック上等」は一転して直球のラブストーリー。この振れ幅がすごいしどのアイデアも面白いので次回作も楽しみです。 

みっともない恋 (BABYコミックス)

みっともない恋 (BABYコミックス)

 

 

4位「起きて最初にすることは」志村貴子

両親の再婚で突然兄弟になった夏央と、ゲイの兄、公崇。弟は、兄が自室に同級生を連れ込んでいたしているところを目撃してしまった時から兄をキモいと言って遠ざけ、学校で兄がゲイであることを言いふらし、それが発端で兄は学校を辞めてしまいます。それにもかかわらず、兄は昔から変わらず弟が大好きで、拒否されてもめげずに性的な目で弟を狙っており…という話。

弟が自分を拒否するのは自分がそういう場面を見せてしまったからだ、という罪悪感から「オレちゃんとかっこよくなるから夏央の兄でいさせて」と泣いて懇願するだめすぎるお兄ちゃんもかわいいし、今までついてた悪態がすべてお兄ちゃんへの「好き」の裏返しだった夏央もかわいい。家族だからって、夏央の悪態が遠慮なくていいです。気を許してるからこそのわがままさ。だめでやっぱり気持ち悪いお兄ちゃんと、口の悪い弟のやりとりが志村さん特有の淡々とした語り口で描かれていくのが良かったです。

結局カップルになるのか、性的な関係は維持されていくのかなんとも曖昧になって終わってて家族愛と性愛の境界がよくわからないんですけど、固まりきらない関係性を描けるのはBLならではなんじゃないかなと思います。

3位「赤松とクロ」鮎川ハル

赤松とクロ (マーブルコミックス)

赤松とクロ (マーブルコミックス)

 

 男子大学生同士の直球なTHE日常BL。うだうだ考えて好きな気持ちを封印しようとする黒川と、それを持ち前の明るさとバカさで問答無用にこじあけて心の中に入り込んでいく赤松の、すんごい王道なBLなんですけど、やっぱこういうの好きだな…てしみじみ思いましたわ。

クロはその仏頂面でぐだぐだと煮え切らないモノローグ垂れ流してる暗い感じがキャラ萌えとしてドツボでした。ていうか赤松もクロもかっこいいんですよ。ふつうにそこらへんにいる大学生としてのかっこよさがある。そのうえで描かれるクロの受としての表情が妙にエロい。日常に潜むエロ。なんかでもこの漫画って架空の少年漫画のキャラの二次創作っぽくもあるかもしれません。それほどキャラがはっきりしてるってことでもあるのかな。

2位「片恋家族」ちしゃの実 

片恋家族 (バンブーコミックス Qpaコレクション)

片恋家族 (バンブーコミックス Qpaコレクション)

 

 ひとつ屋根の下に暮らす、ブラコンの志信と、その志信が愛する兄の将生と、将生の息子の和臣。実は和臣は叔父である志信を性的対象として見ていて、父の将生に嫉妬しており、ついに父の目を盗んで志信と肉体関係を持つことからストーリーが展開します。

志信は兄にも甥っ子の和臣にも家族愛を振りまいているんだけど、そこに和臣は性愛を返していくんですよ。この家族が故の片思いが切ない。

そして、一見家族として愛し合っている志信と将生にも家族であるがゆえのすれ違いがあり、それを家族であり恋人でもある和臣が救うのですが、もうここまでくると家族愛と性愛の境界が曖昧なんですよね。最終的には志信と和臣はカップルとして、そして家族としてまた同じ屋根の下で暮らすことになり、和臣と将生のライバル的な親子関係も前向きな感じで落ち着きます。家族愛の発露にセックスがたまたま入っちゃってるだけな感じ。私は昔、近親相姦が苦手だったんですけどこれが読めるのは、多分根底に流れてるのが家族愛だからなのかな?と思います。

でも、志信と和臣がキッチンでやっとの両思いセックスにいそしんでるところを将生に目撃されてしまうシーンはやっぱ背徳感あって、家族間の中に発生したエラーみたいでした。なんなんでしょうね……。

1位「夜はともだち」井戸ぎほう 

夜はともだち (POE BACKS Babyコミックス)

夜はともだち (POE BACKS Babyコミックス)

 

男子大学生同士のSM関係を描くBL。この作品が面白いのは、Mの人をいたぶるSの人が実はSMにそこまで入り込めてなくて、少し迷ってる様子のモノローグが出てくるところ。

ゲイでドMな飛田くんが好きで、Sを買って出た真澄だったけど、真澄はSになりきれなくて、SMをしていてもどこか二人の関係はぎくしゃくしています。でもドMの飛田くんにプレイとしてひどいことを散々してきたから、本当に真澄が悪態をついても、それも飛田くんにとってはプレイとしてご褒美のように受け止められてしまう。この関係性の不和の描かれ方が、素晴らしいなと思います。SMという役割を介した関係でいったんつながって、でもそこで役割以上の関係性がない不和に気づいて、それを乗り越えていくラブストーリーでした。

結局二人はおそらくわかりあえてないんだけど、最後は寄り添ってはいるのです。その静かなつながりの深まり方がわかるシーンとか読んでて胸がいっぱいになります。不和も含めて、つながりとするあたりがBLの醍醐味だと思いました。

 

おそ松さんもそうなんですけど、振り返ってみると2015年はとにかく「ひとつ屋根の下」な家族愛スレスレBLばっか好きになってた年でした。11冊には入らなかったけど秀良子さんの「STAY GOLD」も家族もので良かったなあ。

STAYGOLD 1 (IDコミックス gateauコミックス)

あと、11冊にはこれも入らなかったけどやっぱり木村ヒデサトさんのBLはすごい。「おれ、被害者」は短編集だったのであんまりぐっとくるものがなかったんですが、相変わらず面白かったです。でもアイデアは面白いけどBLじゃなくてもいいのかもしれないな…ってやつもあったので今年の新刊楽しみにしてます。

おれ、被害者 (シトロンコミックス)

おれ、被害者 (シトロンコミックス)

 

 2016年はもっとこまめにBLレビュー書けるといいなと思います……。

(取り急ぎ「ROMEO」めっちゃ面白かった)